<機関誌2004年1・2月号巻頭言>


新しい時代に向けて



               (財)日本ハンドボール協会副会長   山下 泉 

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 新しい年を迎え日本ハンドボール界は休む間もなく次の目標にむけてスタートをしな
くてはならない。先ず2月の男子世界選手権アジア予選(カタール)、7月女子世界選手
権アジア予選(広島)で出場権を獲得することである。

 昨年9月のアテネ五輪予選、多くの日本国民の「夢と希望の実現にむけた熱い想い」
もあと一歩のところで応えることが出来なかった。男女ともライバルの韓国に引分けで
善戦したものの、あと一点の重みを痛感した大会であった。地元開催、多くのサポータ
ー等あらゆる有利な条件を整えた戦いであったことを考えれば、この敗戦を真摯に受け
止め次のステップにすることが重要である。

 これまで日本のスポーツ界は企業スポーツ、学校スポーツの二本柱で発展してきたが、
この数年スポーツ環境が激変したと言える。その例を挙げると、学校スポーツである早
稲田大学では、ラグビー部を中心に早稲田大学スポーツ振興組織「ワセダクラブ」を設
立した。日本経済新聞(11/23)によると、その趣旨は、企業スポーツと同様に経済環境
の変化によりOBの寄付金に頼っていた運営資金の確保が困難になり、その上少子化に
よる部員数の減少が重なり、このままでは生き残りが出来ないと判断した。ラグビーを
中心にスポンサー企業や地域と連携したクラブを設立した。「ワセダ」というブランド
を使用することにより企業からの支援を受け、大学の施設を地域の子供達に提供し、指
導育成することで地域と交流を深める取り組みをするという。新しい大学スポーツの取
り組みのあり方が伺うことが出来る。

 一方企業スポーツはいまだ厳しい環境におかれている。長らく低迷した企業の業績も
上昇の気配を感じるが、好況業種といわれる企業でも突然の休、廃部が後を断たない。
企業が所属する地域で愛され、支持され、企業は地域にどういう形で貢献できるかとい
う使命があり、それが企業の理念である筈だ。スポーツの持っている地域貢献、青少年
の健全化、スポーツがもたらす感動、勇気を多くの人が実感し、生きる為に無限の可能
性を秘めていることに気付かない経営者はいないと思われる。

 ハンドボールでも、日本リーグ女子の強豪「シャトレーゼ」が今季限りで20年の幕を
閉じることになり誠に残念である。現在、山梨県教育委員会を中心にクラブ化を目指し
て努力しておられる状況であり、是非実現してほしい。日本協会でも出来る限りの支援
を考えている。

 最近全国の自治体で「クラブ」づくりを模索しており、総合型スポーツクラブが目標
である。しかし国と同様、地域自治体はどこも赤字財政状況であることを考えれば、行
政に資金の支援を頼らずに、施設の提供と人集めを依頼することがクラブづくりにとっ
て重要なことである。学校の週休二日制で土曜、日曜の子供達の居場所づくりはどうす
るのか。力を持て余している子供達に企業スポーツッ経験者が指導するクラブは魅力あ
るものであり、クラブは学校と企業、行政が三位一体となり連携、協力関係を築いてこ
そ成功するものである。

 朝日総研リポート10月号で広島メイプルレッズのクラブ化について特集記事が載って
いる。多数(約20社)の企業が支援する「みこし型クラブチーム」の成功事例として紹介
された。チームは所有しないが協賛する企業、選手の受け皿としての企業、又現物支給
で協力する企業等で構成されており、まさに地域の「おらがチーム」としての新しい型
として注目されている。

 近年スポーツ活動は多様化しており、ハンドボールも例外ではない。日本リーグの中
にも契約選手が多数活躍している。社員としては仕事をせず、ハンドボール活動のみを
するのが契約選手である。アジアの各国の選手はプロ化が進んでおり、自国にプロリー
グがない為、ヨーロッパのリーグで活躍している現状を考えると、日本も海外で活動す
る選手が多数出てくることが期待される。アテネ強化で実施した海外留学制度はそのキ
ッカケとなっている。

 早い時期に日本でもプロリーグの誕生が必要となるだろう。多くの課題はあるが、オ
リンピック出場の実現へ向け考えなくてはならない時がきているように思える。4月、
ソウルで東アジア連盟主催の日中韓のトップチームのリーグ戦が開催される。目的はア
ジアが強くなってオリンピック出場枠の拡大に繋がればと考えている。


    (財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」1・2月号より転載