1994年の広島アジア大会の頃から「中東の笛」を感じ始めた。「中東の笛」とはレフェ
リング技術の低いミスジャッジではなく、高度な技術で巧妙かつ大胆に中東諸国寄りの笛
を吹く意図的なジャッジである。
この「中東の笛」によって長きに渡り多くの日本代表選手がオリンピックや世界選手権
への道を断たれてきた。日本協会役員また、元代表監督として、慙愧に堪えず、色々な機
会にアジア連盟の役員や国際連盟の役員に訴えてきた。中でも2002年11月ロシア(サンク
トペテルブルグ)のIHF総会で栗山雅倫氏(東海大学)と共にアジアハンドボールの正
常化について緊急動議を出し、万雷の拍手を得、二人で手を取りあって感激に浸ったこと
は今でも忘れられない。あれから5年、先の豊田市での北京オリンピックアジア予選会で
余りにも酷い「中東の笛」に日韓両国が連携し立ち上がり、やっと選手たちにフェアプレ
イを取り戻すきっかけができたことは感無量である。スポーツにフェアプレイがなければ
与太者同士の喧嘩と一緒である。「フェアプレイ」こそ、我々スポーツ人が死守しなけれ
ばならない「不易」の掟である。つまり「フェアプレイ」は「スポーツの尊厳」そのもの
である。
オリンピックの父クーベルタン男爵はオリンピックムーブメントを提唱した。スポーツ
を通じて世界の友好と親善を推進し、世界平和に寄与しようという主旨である。ここから
スポーツに崇高な理念が定着した。
私は、スポーツを行うことで、心身に素晴らしい3つの要素が醸成されると考えている。
それは「ファイティングスピリッツ」と「フェアプレイ」と「フレンドシップ」である。
どんな相手にも怯まず、慢心せず、積極果敢に挑戦するファイティングスピリッツ。ど
んな状況にも挫けず常に公平で正大な心を持つフェアプレイ。戦いのあとに勝者を称え敗
者に心を寄せるフレンドシップ。まさしくこれこそ「スポーツの尊厳」である。
当稿が発行される頃にはIHFの公平な運営の下、北京のアジア予選再戦も無事終り、
勝者をアジアの代表として心から祝福して北京に送り出していることであろう。
ハンドボール界が一丸となった支援体制と、大きな世論を背景に、男女代表チームは思
う存分に戦い、永年の夢を実現してくれることを期待している。
(財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」2008年3月号より転載
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