<機関誌2008年5月号巻頭言>


「うまさ」と「力強さ」



         (財)日本ハンドボール協会常務理事・普及本部長 角 紘昭 


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 3月末は日本のハンドボール界にとって意義ある月であります。「春の全国中学生ハン
ドボール選手権大会」「全国高等学校選抜ハンドボール大会」が開催されている時期です。
このことは、13,4歳の約1600名、16,7歳の約1200名の選手たちがハンド
ボールゲーム一点に集中している瞬間です。また、この選手を取り巻く家族や観客が一つ
一つのプレーや審判の笛に一喜一憂しているときであります。特にチームの指導者は、新
チームを率いての初めての全国大会であり、この大会を通してこれまでの指導を反省した
り、これからの指導方法についていつも以上に集中して考えたりしておられる瞬間である
と思います。

 この、日本中のハンドボール関係者が試合に集中している瞬間、私にとっては、「今年
の出来はどうかな?」と期待で胸が一杯のときでもあります。時間の都合上この数年は中
学生選手の様子しか見ることが出来ませんが、参加選手の体格、プレーの様子、監督の采
配の仕方などから、ハンドボールというスポーツの「出来具合い」を確かめています。年
年、この時期の中学生のプレーは「うまく」なってきています。ゲーム中にすばらしいプ
レーのコンビネーションも見られます。また、ハンドボールに対する理解度も深まってい
るように思われます。

 「北京オリンピックアジア予選再試合」の結果、「スポーツをする意義を考えること」
「国際関係の理解の必要性」「日本のプレーを省みること」「今後を見据えた選手の育成」
等々について、様々な課題が出てきました。その中でも、二度の日韓対決の中で「個の強
さ」の必要性を思い知らされたのは私ばかりではないと思います。「強さ」は

 ・コンタクトプレーの中でも崩れることなく意図したプレーができる力強さ
 ・切羽詰った状態の中でも的確に状況判断できる精神的強さ

の二つに要約できます。宮下充正東大名誉教授は「個人差はあるが無理なく心身の成長を
促すには運動能力の発育順序を踏まえて鍛えること」として

 ・11歳以下は「跳ぶ」「走る」「投げる」という基本動作の習得に適した時期。様々
  な運動を楽しく続け、柔軟な身のこなし方を身につけると「脳・神経系」の発育に役
  立つ。
 ・12〜14歳は体力面、精神面で「粘り強さ」を高める時期。走る距離を伸ばしたり
  スピードを上げるなど適度に負荷を与えることで「呼吸・循環系」の機能が向上する。
 ・15〜18歳は「力強さ」を身につける時期。筋肉トレーニングなどで「筋・骨格系」
  を鍛える。

と年齢別の留意点をまとめ思春期における一般的、専門的なトレーニングの重要性を指摘
されています。

 また、今年3月に開催された第6回ハンドボールコーチング研究会(指導委員会主管)
においても「…体格面で世界に劣る日本だからこそ、発達段階に応じた体力トレーニング
というものを検討する必要がある…」との発表がされています。

 少年期の指導者の方々は、ハンドボールの指導をする際に「はやさ」「うまさ」と同時
に「力強さ」をあわせて考えていく必要があると思います。これまでの中で、これらの指
導法についての情報交換の場や研修の場が少なかったように思います。今回のようにハン
ドボール界に衆目が集まってきた中で、さらに一歩、力強さをアピールした日本のハンド
ボールを作り上げるには日本協会もさることながら、各ブロック協会、各都道府県協会の
中でも指導者の情報交換、研修の場の設定が急務であります。それと同時にハンドボール
特有の体力を洗い出し、そのトレーニングの方法、指導時期を科学的に分析し、提示する
ことも日本協会の重要な仕事と認識しております。

 今年からは皆様のご理解とご協力により中学生の個人登録が始まります。日本協会とし
てはこの機会に、中学生チームの指導者、プレーヤーの方々に冊子やDVD等による具体
的なトレーニング資料を直接お届けしようと考えています。

 関係者が一丸となって小中高校時代の世代の育成に全力を注ぐことこそ、日本のハンド
ボールが名実共にメジャースポーツになるための最短距離だと信じています。それぞれの
お立場の力を結集しようではありませんか。



  (財)日本ハンドボール協会機関誌「ハンドボール」2008年5月号より転載